棚卸減耗とは

日商簿記検定2級の商業簿記を学習された方であれば、「棚卸減耗」を覚えていますでしょうか?

【設例3】
(1)材料¥5,000(100kg)を掛けで購入した。
(2)材料を直接材料として70kg消費した。
ただし、材料の月初棚卸残高は¥2,650(50kg)であった。
材料の月末実地棚卸数量は60kgであった。

工業簿記の世界においても、材料や仕掛品、製品といった資産について棚卸減耗が発生する場合があります。

前講で登場した【設例2】の問題文に、最後の一文「材料の月末実地棚卸数量~」が加わりました。月末実地棚卸数量というのは、月末に実際に調べた材料の数量という意味です。それがどーしたって?

この設例の数量だけに着目して考えてみます。

まず、前月から繰り越されてきた材料が50kgありました。そこへ新たに100kg材料を購入しました。トータルは?150kgですね。そこから、70kg消費しました。つまり、150kg-70kg=80kg残ってるはずです。この、残ってるはずの数量のことを「月末帳簿棚卸数量」といいます。

これに対して、実地つまり実際に材料倉庫に行って調べたら60kgしかなかったというわけです。

差異の20kgは?

この差異の20kgのことを「棚卸減耗」といいます。

材料の性質によって蒸発したとか、なくしたか、といった目減りのことを減耗といい、帳簿上の残高と実際上の残高の差異で表されます。

棚卸減耗の計算~平均法の場合

それではこの棚卸減耗が発生した場合を、まず平均法から見ていきます。

(1)(2)の仕訳は、前講の【設例2】と同じです。

上の材料勘定のボックス図をご覧ください。借方側つまり、材料倉庫に入ってきた側は、月初50kg+当月購入100kgで150kg。そこから貸方側つまり材料倉庫から出ていった側は、当月消費70kgですから、月末には80kg(×平均@¥51/kg=¥4,080)残っているはずです。

ところが実際には、問題文にあるように60kg(×平均@¥51/kg=¥3,060)しか残っていなかったわけです。どこ行った20kg?

これが棚卸減耗です。

金額にして、平均@¥51/kg×20kg=¥1,020の材料ロスです。

材料は資産ですから、資産がロス(減耗)すれば貸方です。

/(貸)材 料 1,020

はわかりました。では借方は?

2級の商業簿記では「棚卸減耗損」という費用・損失の科目に仕訳しました。

工業簿記では違うのか?

「工業簿記ダイジェスト」編「製造原価と販管費」のところでご紹介しましたように、棚卸減耗損という科目で仕訳すると、それは販管費(売るための費用またはその他の管理コスト)になります。

それでは、この【設例3】の材料ロスは販管費でしょうか?もし問題文でそういう指定があれば別ですが、一般的に材料のロスと、それによる余計な材料費アップは、製造原価(製品を作るためにかかるコスト)に計上します。

それでは、製造原価だとすると、借方は何て科目に仕訳すればいいのか?

製造原価は材料費・労務費・経費の3種類に分類されるのでした(形態別分類)。さらにこの3分類は製造直接費と製造間接費に分けられ、直接材料費・間接材料費、直接労務費・間接労務費、直接経費・間接経費の6つに分けられるのが一般的です。このどれに該当するのか?

材料のロスなので、直接材料費か間接材料費かと思いがちですが、一般的には間接経費扱いをします。ですから、仕訳の科目名は「製造間接費」。

ここは、日商簿記検定2級本試験でもよく狙われる論点ですので、覚えておいてください。

【設例3~平均法】の棚卸減耗の仕訳

(借)製造間接費 1,020

/(貸)材   料 1,020

それではここで、【設例3】平均法の場合の(1)(2)の仕訳と勘定記入をまとめてお示しします。

【仕訳】

(1)

(借)材 料 5,000

/(貸)買掛金 5,000

(2)

(借)仕掛品 3,570

/(貸)材 料 3,570

(借)製造間接費 1,020

/(貸)材   料 1,020 

【勘定記入】

棚卸減耗の計算~先入先出法の場合

それでは、【設例3】を先入先出法で計算した場合はどうなるか?

平均法の場合との違いは、(2)の材料消費が、先入先出つまり先にあった月初材料(@¥53)から50kg全部使って、残り20kgを当月購入分(@¥50)から使うのでした。

ということは、月末に残っている材料は、全部当月購入分(@¥50)ということです。帳簿上は@¥50/kg×80kg=¥4,000分残っているはずの材料が、実際には@¥50/kg×60kg=¥3,000分しか残っていなかったというわけです。

つまり、棚卸減耗(材料のロス)は¥1,000分です。

あとは、平均法で学習したときと同じやり方で仕訳、材料勘定の記入をします。

【設例3~先入先出法の場合の仕訳】

(1)

(借)材   料 5,000

/(貸)買 掛 金 5,000

(2)

(借)仕 掛 品 3,650

/(貸)材   料 3,650

(借)製造間接費 1,000

/(貸)材   料 1,000

【勘定記入】

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