前講では、製造間接費の製品(仕掛品)への配賦を、実際発生額が確定するより前に、予定配賦額でもって仕掛品勘定へ振り替える予定配賦を学習しました。

ところで、その予定配賦額ってのは、どうやって算出されるのでしょう?

予定額ですから、当然実際発生額と違い、差異が生じるのは仕方のないことなのですが、とはいえ、実際発生額とあまりかけはなれた数字で配賦しても、原価計算の役に立ちません。

そこで、製造間接費の予定配賦額は、次のような根拠をもって算出されるのが一般的です。

1.製造間接費年間予算

まず、製造間接費予定配賦額のおおもとのよりどころとなるのが、年度当初に策定された、製造間接費の今年度1年分の予算です。

予算は、会社全体の事業計画を数字の面で表現したものでもあり、会社の最高意思決定機関(株式会社であれば取締役会)により決定されるものなので、もっとも尊重されるべき数字といえます。

では、この製造間接費年間予算を、12か月で割って1か月分にすれば、製造間接費予定配賦額になるんでしょうか?

製造間接費がほとんど固定費(*)であれば、単純に12か月で割って1か月分にすればいいのですが、例えば工場使用電力の電気代や、生産量が多いほど多く消費される間接材料など、生産の度合いに応じて増減する製造間接費も多くあります。すると、生産量が少ない月は製造間接費も少ないでしょうし、逆に生産量が多ければ製造間接費も増加傾向になるでしょう(**)。

となると、単純に年間予算を12か月で割った予定配賦額では、実際発生額とのギャップが広がりそうです。

じゃあ、どうすればいいか?

(*)固定費:工場がフル稼働しても、逆に開店休業状態でも関係なく一定額発生する費用。例えば、建物・設備の減価償却費や管理スタッフの固定給など

(**)生産量の度合い(多い少ない)を「操業度」といいます。

2.基準操業度

であれば、単純に12か月ではなく、年間の生産量で割ればいいのか?

1種類の製品しか作らないのであれば、生産量を基準にすればいいでしょう。

しかし、いろいろな種類の製品を製造している場合、製品1個(あるいは1kg、1トンなど)作るといっても、カンタンな製品と複雑な製品では、製造にかかる時間や手間ひま、費用が違ってきます。

そこで、一般的には、生産にかかる時間を基準にします。

通常、年間予算を策定する際には、製造間接費の総額だけではなく、この1年間に見込まれる、生産にかかる総時間数も算定します。これを(年間)基準操業度といいます

つまり、製造間接費の年間予算額を、年間の総作業時間(=基準操業度)で割って、1時間あたりの製造間接費を算出しておきます。これを予定配賦率といいます。

予定配賦率=製造間接費年間予算額÷基準操業度(年間)・・・公式1

3.実際操業度

予定配賦率が求まりましたら、あとは、今月の実際操業度つまり実際に作業した作業時間を掛けてあげれば、基準となる製造間接費である製造間接費予定配賦額が算出されます。

こうすれば、生産が少ない月は予定配賦額も少なく、生産が多い月は予定配賦額も多くなります。

製造間接費予定配賦額=予定配賦率×当月実際操業度・・・公式2

上記の2つの公式を覚えてください。

2つも同時に覚えられないですって?

「基準操業度」だの「予定配賦率」だの「実際操業度」だの覚えられないですって?

製造間接費年間予算額を基準操業度で割って実際操業度を掛ければいいんです。

(製造間接費年間予算額・基準操業度・実際操業度は問題文で与えられます。)

製造間接費予定配賦額の求め方(具体例)

【設例4】次の資料から、製造間接費予定配賦額を求めてください。
[資料]
製造間接費年間予算額¥62,400
年間基準操業度(直接作業時間)1,560時間
当月実際操業度(直接作業時間)125時間

まず、製造間接費年間予算額と年間基準操業度で割って、1時間あたりの製造間接費単価(=予定配賦率)を算出します。

製造間接費年間予算額¥62,400÷年間基準操業度1,560時間=@¥40/時間

次に、これに当月実際操業度を掛けます。

予定配賦率@¥40/時間×実際操業度125時間=¥5,000

ちなみに、問題文中操業度のカッコ書きである「直接作業時間」ですが、日商簿記2級の学習上、操業度といえばほぼ、

① 直接作業時間

② 機械作業時間

のどちらかで出題されます。

①は従業員が作業する時間で主に労務費に影響する基準

②は機械が回っている時間で、機械の稼働に応じて発生する経費などに影響する基準

です。

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