固定予算のデメリットと変動予算
前講で学習した固定予算を使った差異分析では、予算差異と操業度差異を分ける予算が、操業度に関わらず一律¥5,000でした。工場が100時間操業しても0時間でも、同じ¥5,000です。
製造間接費の予定配賦額は操業度に比例して増えますし、実際発生額も、比例はしないでしょうが、やはり操業しないのと沢山操業するのとでは、操業時間が多い方がより発生額も増えるでしょう。そうすると、予算額だけが固定額だと、予算差異と操業度差異の分け方が実態から遠ざかってしまう恐れがあります。
そこで、予算額も、操業度に応じて増減させるのが変動予算です。
ただし、製造間接費は雑多な費用の集合ですが、全てが変動費(=操業度に比例して増減する費用)ではなく、中には固定費(=操業度に関わらず一定)的なものも含まれているのが通常です。
例えば、間接経費を構成する電気料金であれば、電力使用量に関わらず一定額発生する基本料金(=固定費)に、電力使用量に応じて増減する従量料金(=変動費)が組み合わさったものです。
そこで、製造間接費の予算額も、固定費部分と変動費部分の合計で算出するのが、変動予算です、
【設例6】 次の資料に基づき、当月の製造間接費配賦差異を計算し、変動予算により予算差異と操業度差異に分析してください。 [資料] 製造間接費年間予算額¥62,400(うち固定費¥46,800) 年間基準操業度(直接作業時間)1,560時間 製造間接費当月実際発生額¥5,500 当月実際操業度(直接作業時間)125時間 |
この【設例6】のような問題が、日商簿記検定2級本試験で出題される製造間接費(変動予算)の典型的な問題です。
解き方の手順としては、まず、製造間接費の年間予算額を年間基準操業度で割ります!
【手順1】予定配賦率
製造間接費年間予算額¥62,400÷年間基準操業度1,560時間=@¥40/時間
1時間あたりの製造間接費予算額。これが予定配賦率です。
これをさらに、固定費と変動費に分けておきます。
固定費年間予算額¥46,800÷基準操業度1,560時間=固定費@¥30/時間
変動費年間予算額¥15,600÷基準操業度1,560時間=変動費@¥10/時間
次は、当月実際操業度を掛けてください!
【手順2】予定配賦額
予定配賦率@¥40/kg×当月実際操業度125時間=¥5,000
これが予定配賦額です。予定配賦額が出たら、そこから実際発生額を引きます!
【手順3】配賦差異の算出
予定配賦額¥5,000-実際発生額¥5,500=△500(不利差異)
これで、本問題の前半の問いの答えは出ました。次は差異分析です。
【手順4】差異分析
差異分析にあたって、まずは基準となる予算額を固定予算、変動予算に分けてそれぞれ計算しておきます。
製造間接費固定費年間予算額¥46,800÷12か月=月間固定予算額¥3,900
変動費率@¥10/時間×当月実際操業度125時間=当月変動予算額¥1,250
当月固定+変動予算合計=¥3,900+¥1,250=¥5,150
これで、【手順3】の配賦差異の式に対し、月間予算額を間に入れて、2つの引き算に分解します。
製造間接費配賦差異△500=
予定配賦額5,000-予算額5,150 =△150(操業度差異)
予算額5,150―実際発生額5,500=△350(予算差異)
以上、計算式で差異分析まで順を追って解いていきました。
計算式を正確に間違いなく書けるようになればいいんですが、特に変動予算の出し方など、式を間違えてしまう可能性もあります。
そこで、次講では、ここまで計算式だけで解いてきた【設例6】を、ビジュアルにグラフを描いて解くやり方を学習します。